日本ではあまり知られていない19世紀末のデンマークの画家ヴィルヘルム・ハンマースホイの展覧会へ行く。 この画家、趣向が私と同じ。興味があるのは”建物”。窓から見えるのも自然ではなく建築物であるのが望ましい。窓がいっぱい並んでいる建物を眺めていたい。四方を窓に囲まれた中庭(花が咲いている必要はない)からただひたすらに向かいの窓や四角い形を見つめていたい。”部屋”に興味がある。興味があるのは部屋そのもの”壁””床””窓”である。部屋の”扉”から続きの部屋が見えている光景、扉の隙間の向こうに存在する部屋に引かれる。これは、完全なる建造物、角張った造形、部屋フェチである。 ハンマースホイは旅行でイタリアを訪れても、その明るい土地柄を描き残すことがなく、「手つかずの自然」といったものに興味がなかったと言われる。いわゆる牧歌的風景がはほとんど存在しない。彼の描く室外の絵は、ほとんどがスカンジナビアの建築物だが、そこにいるはずの人物や雑踏が描かれることはない。人物の息づかいを一切排した第2の世界的な冷たい風景はまたスカンジナビアの”色”を表現していると感じた。彼の絵を見て真っ先に思い出したのがスウェーデンのロイ・アンダーソン監督の『愛おしき隣人』である。あの映画に終止漂っていた陰鬱な”色”とまったく同じだったからだ。そしてその風景もまた、”扉”を開けると開いているかもしれない”別の世界”を連想させる。そう、彼にとってのスカンジナビアの風景も室内の絵も同じ”扉”の向こうの”別の世界”。私はそういう世界が広がっているかもしれないという不安を感じるのが好きなのだが、彼もそうだったに違いない。 彼は、国外ではとりわけロンドンを好んでいたらしく、霧のロンドンの街並を描いた作品などもう寒くて寒くてたまらない暗さだったが、やはり独特の建物と空気の色はまた私の好きな英国の”色”でもあった。この点でも私と好みは一緒のようだ。 彼の代表作でもあり、作品の大半を占める室内画のほとんどは彼の住んでいたコペンハーゲンのストランゲーゼ30番地のアパートである。装飾を極限まで排して繰り返し同じ構図を描いているが、扉や壁にかかる絵のディテールを少しずつ替えている。(実は私も小さい時はこうしてディテールを替えた”部屋”を何度も何度も描いて遊んでいた。そのことを思い出して嬉しくなった)彼は写実していたのではなく、写真を見ながら描いたりもしたそうである。また大きなキャンバスから描き始め、理想の構図にキャンバスを切り取るという作り方もしていた。足が3脚に見える描き方や、アンバランスな位置に足のあるテーブルなどひと筋縄ではいかない異端画家とも言える。こうした作風が当時のデンマークには受け入れられず彼が王立アカデミーから一線を画していて、親しみやすい温かい画風の別の画家達の方が人気があったそうだが、この展覧会ではその同世代の画家の絵も展示されていたが、どうみても面白みのない絵であった。ハンマースホイは国内では「現在までで最も奇妙な絵画」などと言われ国外で評価が高かったのだが、当時のデンマークは自分たちの国に漂う憂鬱さを認めるわけにはいかなかったのだろうか。今となってはそんな評価はセンスがないとしかいいようがない。 国外でも彼の没後、急速にその名前が忘れ去られたが、1997-98年になってやっとこさ再び脚光を浴びることになったそうだ。今回の日本での回顧展は日本のハンマースホイ脚光の瞬間となるに違いない。全ての人にとは言わないが、何となく好きかもしれないと感じる方はぜひ足をお運びください。 『ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情』 国立西洋美術館 2008年9月30日(火)~12月7日(日) ところで、国立西洋美術館(本館)は、日本での唯一のル・コルビジェ作品です。国立西洋美術館ホームページによると、 平成20年1月7日(月曜日)、フランス政府等各国共同で進める「ル・コルビュジエの建築と都市計画」の構成資産の一つとして、「国立西洋美術館(本館)」が「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」(通称:世界遺産条約)に基づく世界遺産一覧表への記載物件に推薦されることが決定しました。 だそうです。認められるといいですね。写真は夜で暗くてすいまへん。
by madonotabi
| 2008-11-09 21:28
| 美術
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