昨年見た展示会で最もインパクトを受けたアウトサイダー・アーティスト、ヘンリー・ダーガーのドキュメンタリー映画がやっと公開されました。ヘンリー・ダーガーについては昨年の記事Henry Darger: A Story of Girls at War - Of Paradises Dreamedをご覧ください。 映画は、ヘンリーの描いたヴィヴィアン・ガールズが動くアニメーションになったというよりは、ヘンリーの独白の形で彼の生涯を綴る部分と、彼と実際に接した数少ない隣人たちにへのインタビューにアニメーションが挿入され進んでゆくという形をとっていて、ヘンリーの作品が別個のアニメーション作品になってしまう形は避けられていて安心しました。なので作品自体はこれといってドラマチックな盛り上がりがある訳ではなく淡々と事実を綴ってゆきますが、ヘンリーについては資料があまりに少ないので、隣人へのインタビューは大変貴重で重要な部分を占めていましたし、アニメーションもヘンリーの作品の中にある要素(ヘンリーは絵の中に説明や歌の歌詞を書いていた)だけを使用するようにしたというガイドラインのもと、決して作品を壊すことないアニメーションに仕上がっていました。 ヘンリーは、1892年生まれのため、まさか彼を知る人々がまだ生きているということに驚いてしまいました。後にヘンリーの膨大な作品を世に送り出すこととなる最後の大家キヨコ・ラーナーや晩年のヘンリーの世話をした男性などはまだまだ老人という年ではなく、ヘンリーが毎日通った教会でミサの手伝いをしていた男の子などはまだ若者でした。正直、実際の作品展を見ているし、動くヴィヴィアン・ガールズにはあまり興味がないし、映画になるってどうなのかな?と疑問ではあったのですが、隣人たちからヘンリーの当時の様子や印象を聞けるだけでもこの映画は貴重な資料と言えます。 *** 注意!ここから下は、ネタバレが含まれます。 昨年、原美術館でヘンリーの作品展を見て衝撃を受けて、彼本人に強く興味を持ったのですが、彼の孤独な生涯は少々胸が痛くなる部分ではありました。彼は作品を誰に見せるためでもなく、自分のためだけに描いていのだからそれでも幸せだったと思い込むことで勝手に自分を安心させていたところがありました。でも、この映画を見て、彼の作品が発見されたのはまだヘンリーが存命中のことで、彼を世話していた隣人が老衰して救貧院に入所していたヘンリーに「作品を見たよ、すばらしいね」と声をかけると「もう遅い」と言ったという事実を聞いて自分だけのために描いていたという解釈は違っているかもしれない、「非現実の王国」を彼は世に出したかったのかもしれない、そんなことを思っていたら悲しくなりました。完全なる孤独の中で人は生きられるのか?椅子に座ったまま眠り、神と現実世界と自分と戦って「非現実の王国」の中にいたヘンリーは、必ずしも非現実的な人間ではないような気がします。もっと多くのヘンリーがこの世にはいるのではないでしょうか。私も含めて。 シカゴのヘンリーのアパートを訪ねることを楽しみにしていたのですが、残念ながらヘンリーの部屋は2000年に完全に取り壊されてしまいました。ヘンリーの部屋の写真集『HENRY DARGER'S ROOM 851 WEBSTER』を購入しておいてよかった。でもヘンリーの暮らした町をいつか訪ねてみたいです。 「非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎」 シネマライズにて 3/29〜4/18まで 「シネマライズ」って好きな映画ばかり上映するなー。 ほんとうに素晴らしい。
by madonotabi
| 2008-04-06 22:04
| 映画
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